「かかりつけ医」と聞いたとき、多くの人は内科医や家庭医を思い浮かべるかもしれない。
特に日本では、かかりつけ医機能が制度的に注目されるようになってから、「初期対応を行い、必要に応じて専門医へつなぐ存在」として位置づけられてきた。
しかし、そのような単線的な医療連携モデルは、すでに限界を迎えている。
多疾患を抱える高齢者が地域に増加し、心身の両面にわたるケアが求められる現代において、精神科医もまた、かかりつけ医としての役割を果たすべき存在であると、私は考えている。
日本医師会が提唱する「地域を面で支える」というビジョンは、単に診療科の壁を越えるという意味にとどまらない。それは、医療・介護・福祉を統合した包括的な支援体制の構築を目指すものであり、その中に精神科医が果たす役割はきわめて大きい。
特に、私は認知症をはじめとする高齢者の精神疾患を専門としている精神科医であり、精神症状のみならず、高齢者に多い身体合併症や内科的疾患にも対応している。このような実践の中で、精神科医が地域の「かかりつけ医」として機能することは、むしろ当然の成り行きであると実感している。
実際、認知症患者においては、うつや不安といった精神症状が身体状態に密接に関係することが多く、血圧・血糖・栄養状態のコントロールは、精神的安定を図る上でも欠かせない。また、服薬管理や家族支援、在宅療養に向けた地域資源との橋渡しなど、精神科医が主治医として多職種と連携しながら「地域全体で支える医療」の一翼を担うケースは枚挙にいとまがない。
「精神科医は専門医であって、かかりつけ医ではない」とする固定観念は、もはや時代遅れである。
むしろ今後は、精神科的視点を持ったかかりつけ医の存在が、地域包括ケアの要となるであろう。精神疾患を抱えた患者に限らず、高齢者全般を対象とし、心と体の両面にまたがる総合的なケアを提供する精神科医の役割は、今後ますます重要となる。
精神科医もまた「地域のかかりつけ医」である。この視点を持ち、多職種と連携しながら地域を支える医療を実践していくことこそ、これからの精神科医に求められる責務であると私は信じている。