対話の力 -若年性認知症支援コーディネーターの活動から-
2022年8月1日
執筆者: 田中香枝

若年性認知症支援コーディネーター(以下、コーディネーター)をご存知でしょうか。
寄稿の機会を頂いたので、若年性認知症のことやコーディネーターの活動を紹介したいと思います。

65歳未満で発症した認知症のことを若年性認知症と言います。
2017年度から2019年度に実施した日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業の調査報告によると、全国における若年性認知症の総数は、推定35,700人、有病率は18歳~64歳人口10万人当たり50.9人です。
原因疾患は、アルツハイマー型認知症(52.6%)、血管性認知症(17.1%)、前頭側頭型認知症(9.4%)、頭部外傷による認知症(4.2%)、レビー小体型認知症/パーキンソン病による認知症(4.1%)その他です。

国が推進している認知症施策推進大綱に若年性認知症の人への支援が位置付けられており、全都道府県(一部の政令指定都市)にコーディネーターが配置されています。
主な活動は、個別相談支援、社会資源の利用支援、関係機関との連携、普及啓発のため講演活動などです。

対話の力を実感したある若年性認知症のご本人とご家族(妻)との関わりを紹介したいと思います。
                     
最初は、認知症カフェ(以下、カフェ)で出会い、そこから関わりがスタートしました。
病気がわかった当初、(妻は)「朝、起きた時、これは現実か」「なぜ夫だったのか」と毎日思っていたようです。
人生において、予想外・想定外の出来事が起きた時の通常の反応だと思います。
若くして病気になる衝撃は高齢者に比べてより大きく、経済的な事・親の介護・子どもの教育など影響も多岐にわたります。さまざまな負担が配偶者に集中しやすいと言われています。

インターネットで情報を探し、(妻は)「夫が認知症」という事実から救われたい思いでカフェに参加され、その後、スタッフの勧めでご本人も参加されるようになりました。
継続的に参加し、数年たった今はカフェに参加することが生活の一部、糧になっているとの事です。

そして「夫が認知症になる前は、認知症は怖くてなりたくない病気と思っていたが、夫と過ごしてきて、今は認知症がさほど怖くない。自分が認知症になっても嫌ではないと思う。これも人間のありようかなぁと思うから」と。
どのような事があり、見方や考え方は変化をしていったのでしょうか。

新たな人とのつながりやその人たちとの対話が、変化を生んだのではないか。
指示や指導、Q&Aではない、どんな思いでも言える対話を通じての気づきや学びの積み重ねによるのではないかと考えています。

広辞苑より
対話:向かい合って話すこと。相対して話すこと。二人の人がことばをかわすこと。

対話をするには、あたりまえですが、時間を必要とします。まずは、関係構築にはじまり、定期的に関わりを継続することが大切です。
専門職の関わりは、数値で測れることや効率的かどうかが評価対象になりやすいですが、その物差しだと、対話をすることの価値は測れないと思っています。

(妻は)「救いを求めカフェに参加、なかなか気持ちが楽になることはなかった。対話を続ける過程で、『夫が認知症』だという事実を認めることが救いなのだと気付くことができた」「進行して次のステージになっても、対話を続けることで前を向くことができている」と。そんな奥様のお話を聞くと、人って強いなと思います。
本来、持っている力を発揮できたり、新たな力を生み出せるように、対話が生み出す心のエネルギーが随時補給されているのだと思えます。

今後も今、出会っている人たち、これから出会う人たちと対話を積み重ねていきたいです。

執筆者プロフィール
田中 香枝 Yoshie Tanaka
若年性認知症支援コーディネーター
2001年~ 公益財団法人積善会曽我病院にて勤務
精神保健福祉士、社会福祉士として、相談支援事業に従事
2014年、神奈川県より認知症疾患医療センターの受託に伴い、センター業務を兼務
2017年6月〜 現職

SHIGETAハウスプロジェクト、小田原・箱根・真鶴・湯河原の一市三町若年性認知症を
考える会、認知症をにんちしよう会などの地域活動にも関わっている

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