ナポレオン・ヒルは『思考は現実化する(Think and Grow Rich)』において、「思考は物体である(Thoughts are things)」という、直観的でありながら深遠な命題を掲げた。
人間の思考は目に見えないが、持続的で明確な願望と結びついた思考は、行動を呼び起こし、やがて現実を変えていく
この哲学は、成功や自己実現を目指す多くの人々に影響を与えてきた。
一方、精神科医は日々、患者の「思考」や「信念」と向き合い、それがどのように感情や行動、さらには健康や人生そのものに影響を与えているかを見つめ続けている。
精神科医が扱う「病」は、しばしば思考や認知の歪みと深く関係している。うつ病における「無価値観」や、強迫症における「不安回避思考」など、患者の内面にある“見えない思考”が、外界との関係性を大きく変えてしまう。つまり、ナポレオン・ヒルがいうところの「思考が現実を形づくる」という命題は、精神医学の臨床現場においても日々実証されているとも言える。
加えて、精神科医は単に症状を治めるだけではなく、患者が自己肯定感や自己効力感を回復し、「自らの人生を生きる力」を取り戻すための伴走者でもある。
これはまさに、ヒルの唱えた「明確な目標」「信念」「持続的な努力」という成功の三要素を、患者の回復過程に当てはめていく営みである。
精神科医が成功哲学を学ぶことは、自らの成長にとどまらず、患者支援にも資する。患者が自らの思考に気づき、それを書き換えていく力を得るとき、その人の人生に新たな意味が生まれる。ナポレオン・ヒルの哲学と精神科医の実践は、異なる領域に見えて、実は「人間の思考が人生をつくる」という一点で交差している。
ゆえに、精神科医こそ「思考の力」を誰よりも信じ、その可能性を広げる存在であるべきではないだろうか。