家具×医療 〜あたらしい地平線へ ロッキングチェアがつなぐ、人と時間と空間〜
2025年5月22日
執筆者: 渡邊謙一郎

家具と医療、それは一見すると無関係に見えるかもしれません。
しかし、その見えない境界を取り払うならば、私たち人間の「くらし」と「いのち」を巡る、全く新しい地平線に立つことができるかもしれません。

STANDARD TRADE. CO.,LTD.は、時代や流行に流されず、人と空間に誠実な家具を生み出してきました。私たちの家具には、素材に真摯に向き合いあった時間と職人の手を通して作り上げていく「時間の記憶」が存在します。そしてその背景には、「生活の質を高めたい」という静かな思想が通底しているのです。

一方、メモリーケアクリニック湘南は、認知症を中心とした高齢者医療の最前線で、「暮らしの医療」を実践している医療機関です。地域に根ざし、患者さんと家族に寄り添い、「医療は生活の一部である」という思想のもと、診察室を超えたケアを展開しています。

両者に共通するのは、「人間の尊厳」に真摯であるという点になります。STANDARD TRADE.の家具は、無駄を削ぎ落とした静謐な佇まいを通して、人間の存在を空間の中心に据えます。メモリーケアクリニック湘南の医療は、病名や数値ではなく、一人ひとりの人生とストーリーに向き合います。

そんな両者が交差する接点のひとつが、「ロッキングチェア」です。
たとえば認知症のある人が、木の温もりに包まれ、わずかな揺れの中で揺らぎのような安心感を得ます。また、座るだけでなく、過去の記憶や家族の温もりが静かに蘇る場所となり得るかと思います。「揺らぎをも伴う安らぎ」、それはもはや家具に触れながらも治療であると言えます。

医療にとって環境は薬や機器と同じくらい大切です。そこに安らぎや調和があれば、人は自然と穏やかになるかと思います。無機質になりがちな医療空間が、「治療の場」から回復と再生の「生活の場」へと馴染んでいくように、家具はその変革のパートナーになり得ると考えています。

家具と医療。それは人間の「手」と「こころ」が出会う場所であり、未来のケアのあり方を照らす新しい灯です。ロッキングチェアから始まる新しい物語が、人はいつまでも豊かに生きるべきだと照らしてくれているようにも思えます。

執筆者プロフィール
渡邊 謙一郎 Kenichiro Watanabe
株式会社スタンダードトレード 代表
神奈川大学 建築学部 非常勤講師

神奈川大学で建築を学んだ後、特注家具職人の道でキャリアスタート。
26歳でオーダーメード家具屋を設立し、日本の伝統的な指物技術を駆使して長く使えるシンプルな家具を作っている。
また、家具と家具のある空間デザインが評価され、様々な個人や企業からのオファーを受けている。
<代表作>
THE NORTH FACE(ミッドタウン日比谷)
SAWAMURA(軽井沢 他)
THE CITY BAKERY(全国)
Total football asia(上海)
<修復 及び 復元>
フランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテル家具
自由明日館の家具
小泉八雲の机椅子復元


現在はデザイン製作を中心に活動しながらも 大学や企業などで教育へのアプローチも行う。

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