◆“ある日突然”親の認知症に気づく?
認知症の多くは急に判明しても、急になるものではありません。認知症は、脳内で徐々に進行しているものの、目に見える症状として現れるのはある日突然というケースが多いのです。
たとえば、同じ話を何度も繰り返すなどの小さな変化があって、それに気づくことで備えることができます。しかし、離れて暮らしていると、どうしても気づくのが遅れてしまいます。
特に親と同居していない場合はご近所の方や地域包括支援センターの担当者などに、あらかじめ「なにかあったらいつでも電話してください」とお願いしておくことが大切です。
いきなり親を自分のところに呼び寄せるのは現実的ではありません。この先何年もそれが続くことを考えるとどうでしょう。自分たちで全部面倒を見るのは、かなり難しいはずです。
大事なのは、とにかくいろいろな人に頼り、任せること。基本的には介護の「やり方」ではなく「任せ方」です。そこで最初に連絡をとるべき相手は「地域包括支援センター」になります。
◆まずは「地域包括支援センター」に電話を
いまは介護サービスのメニューもたくさんあり、いろいろなサービスを組み合わせれば、実家で認知症の親がひとり暮らし(!)を続けることも不可能ではありません。困ったときは地域包括支援センターに電話する。まずは、このことを覚えておきましょう。
地域包括支援センターは、地域やお年寄りの身近な「よろず相談所」。行政から委託を受ける公的な機関なので、いざというときはもちろん、「いまはまだ必要ないけれど、ちょっと不安」といった要介護認定を受けていない段階からでも相談に応じてくれるのです。
地域包括支援センターでは、状況に応じて介護認定の申請を受けつけたり、さまざまな介護サービスを紹介したりしていますが、高齢者向けの地域イベントや体操教室の情報などをたくさん持っています。早いうちに地域コミュニティとのつながりをつくっておくことが、見守りや介護の体制をつくるうえでの鍵になってきます。公的な窓口なのでもちろん無料で利用できます。
少しでも早く相談し、対策をとったほうがいいとなったとき、ひとつ大きな障害があります。介護されるご本人が「自分はまだ元気だし介護なんて必要ない!」と、反発してくるのです。
一方で認知症やその疑いがある人が徘徊などで行方不明になるケースは、あとをたちません。認知症の人が線路に入り電車にはねられ、裁判になったケースもあります。こういった事件が起きる前に対策をしたいところですが、親子間だけで話し合うと、病院やデイサービスに「行く」「行かない」などと口ゲンカになりやすいのが現実なのです。こういうとき、地域包括支援センターや福祉の専門職などの第三者が介入することで、落ち着いて話し合うことができます。みなさんにとって介護は初めての経験ですが、福祉の専門職はいろいろなケースに対応してきているので、さまざまな調整ノウハウを持っているのです。
◆認知症が疑わしい親を「病院」に連れていくテクニック
認知症が疑わしい親を「病院に行こう」と誘っても、「私はどこも悪くない!」と、なかなか病院に行ってくれない方が多いようです。
そこで正攻法として、地域包括支援センターに相談して協力を仰ぐというものがあります。センターの人に専門家の立場から「こちらの地域の方は一定の年齢になると受診をお願いしています、ご協力いただけませんか?」と言ってもらいましょう。ほかには「私(子ども)が不安だから、私のためにも一緒に行ってくれない?」とお願いした方もいらっしゃいます。愛する孫からの「おばあちゃん、心配だから一緒に病院行こうよ」の一言、これも有効な手段のひとつです。
そもそも、「物忘れ外来」に連れて行かれるのは誰だっていやです。そこで自然に受診できる環境の整った小さめのクリニックを探してみることをおすすめします。かかりつけのお医者さん(皮膚科でも泌尿器科でもかまいません)に事情を説明し、紹介状を書いてもらってもいいでしょう。
外に連れ出すのが難しい場合は、訪問診療や訪問看護で、自宅にお医者さんや看護師さんに来てもらうという手もあります。その場で簡単な認知症の検査をし、あとから病院で精密検査を行うというケースもありました。
認知症の診断は早ければ早いほど、その後の対応がしやすいということを忘れないで欲しいのです。
※当コラムの内容は著書『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法(ポプラ社)』を引用しております。