アルツハイマー病と睡眠
2025年6月21日
執筆者: 濵野 忠則

プロスポーツ選手が良い睡眠のためマットレスをホテルに持参してます、という記事をよく目にします。パフォーマンスを発揮するためには良質な睡眠が不可欠なのですね。

海外のお話ですが、一念発起して会社を立ち上げ、家族のため、社員のために睡眠時間を削りに削って働いた社長の記事をネットで拝見しました。おかげで会社は大いに発展しました。しかしご自身は認知症になってしまったというのです。

アルツハイマー病の脳内にたまるアミロイドβ蛋白は夜間睡眠中に脳内から排泄されることがわかってきました。この経路をグリンパティックシステムと呼びます。ぐっすりと眠っている間にアミロイドβ蛋白の排泄が効率よく行われるのです。夜遅くまで仕事をしていて、もう思考力の限界だ、と思っても一晩寝るとすっきりしてまた頑張れる、という経験を皆さんもお持ちではないでしょうか。2021年の科学雑誌に掲載された論文では、睡眠を7時間とる方は最も認知症のリスクが低かったようです。良質な睡眠は高額なアルツハイマー病治療薬に勝るとも劣らない効果が期待できるかもしれません。

かくいう私は、なぜか電気をつけたまま寝るという習慣がありました。しかしスマートホンを就寝前に見る習慣が良眠を妨げる、という記事を見て以来、真っ暗にして寝るようにしました。なんと噓のようにぐっすりと眠れて、体調もよくなり仕事の能率も上がりました。どうしてもっと早く実行してこなかったのだろう、と後悔するとともに、眠れないと訴える患者さんには、まず真っ暗にして就寝することから始めましょう、とお伝えしています。

執筆者プロフィール
濵野 忠則 Tadanori Hamano
金沢医科大学高齢医学講座 特任教授

福井医科大学を卒業後、福井医科大学附属病院、名鉄病院でレジデント。神経内科医の道でキャリアスタート。
東京大学脳研病理でアミロイドβ蛋白の研究に従事。米国Mayo Clinic Jacksonvilleにてタウ蛋白の研究に従事。

<代表作>
Autophagy dysfunctions in Alzheimer’s Disease and Dementia (Elsevier社)

Hamano T, Gendron TF, Causevic E, et al. Autophagic-lysosomal perturbation enhances tau aggregation in transfectants with induced wild-type tau expression. Eur J Neurosci. 2008 Mar;27(5):1119-30. doi: 10.1111/j.1460-9568.2008.06084.x.

主な所属学会と資格等
日本老年医学会老年病専門医 指導医  
日本神経学会専門医 指導医
日本内科学会総合内科専門医 指導医  
日本脳卒中学会専門医 指導医     
アメリカ内科学会上級会員(FACP)
日本頭痛学会 専門医 指導医     
日本認知症学会 専門医  指導医   
認知症サポート医
JMECCインストラクター(一般社団法人日本内科学会)
日本救急医学会ICLS コースディレクター
臨床研修指導医
日本医師会認定産業医
死体解剖資格          

現在は老年医学、認知症、脳神経内科を中心に活動しながらも 大学で学生・研修医の教育に情熱を燃やす。

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