今回は、株式会社スタンダードトレード 代表で、家具職人の渡邊謙一郎さんと湘南健康大学代表の内門大丈医師との対談を記事にいたしました。
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家具と医療は、実はとても近い存在です
内門(聞き手)
家具と医療と聞くと、少し意外に感じる方も多いかもしれません。
でも私は、認知症診療を続ける中で、「人が触れる環境」そのものが、心や体に大きな影響を与えることを実感してきました。
渡邊
本当にそうですね。
私たちが家具づくりで大切にしているのは、「長く使われること」「人の暮らしに静かに寄り添うこと」です。
それは、医療が目指す“その人らしい生活を支える”という考え方と、とても近いと思っています。
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医療は、診察室の外にも広がっている
内門
病院やクリニックというと、どうしても無機質な空間を想像しがちです。
けれど、安心できる椅子や、落ち着いた空気があるだけで、人の表情は驚くほど変わります。
渡邊
家具は「完成品」で終わるものではありません。
使う人の時間が重なって、少しずつ味わいが増していく。
その“時間を受け止める力”こそが、医療の場でも大切なのではないでしょうか。
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ロッキングチェアがもたらす「揺らぎの安心」
内門
今回の象徴となるのが、ロッキングチェアです。
認知症のある方が、ゆったりと揺れる椅子に座ると、自然と肩の力が抜け、穏やかな表情になることがあります。
渡邊
人は誰でも、揺らぎの記憶を体のどこかに持っています。
子どもの頃に抱っこされた感覚、うたた寝のリズム。
ロッキングチェアは、言葉を使わずに「大丈夫だよ」と伝えてくれる存在かもしれませんね。
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「メモリーケアロッキングチェア」という考え方
内門
私はこの椅子を、**「メモリーケアロッキングチェア」**と呼びたいと思っています。
記憶を無理に思い出すのではなく、記憶が休める場所。
そんな椅子が、医療の現場や暮らしの中にあってもいいのではないでしょうか。
渡邊
とても素敵な名前ですね。
椅子は、人が“ただそこにいていい”と思える場所をつくります。
医療の中に、そうした居場所が増えていくことは、とても意味のあることだと思います。
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治療の場から、生活の場へ
内門
医療は「治す」ことだけが目的ではありません。
その人が、その人らしく暮らし続けることを支える営みです。
渡邊
家具は、その人の尊厳を静かに支える存在でありたいですね。
医療と家具が出会うことで、治療の場が、少しずつ“生活の場”に近づいていく。
それは、未来のケアの大切なかたちだと思います。
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ロッキングチェアから始まる、新しい物語
ロッキングチェアの揺れは、とても小さなものです。
けれど、その揺らぎが、人の心をほどき、時間をゆるめ、「人はいつまでも豊かに生きていいのだ」と、そっと教えてくれます。
メモリーケアロッキングチェア。
それは、家具と医療が出会って生まれた、新しい“安心のかたち”なのかもしれません。
