介護分野におけるロボットの活用
2017年5月12日
執筆者: 都甲 崇

介護分野におけるロボットの活用
今後、介護を行う生産年齢人口が減少する中で高齢者を支えていくためには、介護分野へのロボットの導入が不可欠だろう。
ロボットというとソフトバンクのペッパーなどがイメージされやすいが、このようなコミュニケーション機能を有した人型のロボットは現状ではロボットのごく一部である。ロボットは一般的には「センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」と定義され、以下のように大別される。市場規模としては、現時点では産業用ロボットが大きいが、今後は介護ロボットを含めたサービスロボット分野の成長が見込まれている。

現在、介護分野で開発が進んでいるロボットは、以下のように、介護支援型ロボット、自立支援型ロボット、コミュニケーション・セキュリティ型ロボットの三つに大別される。

現在多くの介護支援型ロボットの開発が進められているが、ここでは研究報告の多い二つのロボットを紹介する。
一つはアザラシの形をしたコミュニケーション型ロボットのパロである(http://intelligent-system.jp/index.html)。認知症の高齢者等がパロとコミュニケーションをすることによって、アニマルセラピーと同様の効果がみられるとされる。実際にパロを用いた介入によって、中等度から高度の認知症高齢者の攻撃性と抑うつの有意な改善がみられた、高度の認知症高齢者の生活の質の改善が認められるとともに向精神薬を使用する頻度が有意に減少した、地域在住の軽度から中等度の認知症高齢者の気分の改善が認められた、等の報告がある。

もう一つは、外骨格型のロボットスーツのHALである(https://www.cyberdyne.jp/products/HAL/)。HALは身体を動かすときに脳から筋肉に送られる信号(生体電位)に反応して歩行や関節の動きをアシストする。HALは介護業務の負担軽減の目的で用いられるものもあるが、研究報告としては身体機能の改善に関するものが多い。例えば、急性期や慢性期の脳卒中患者に対してHALを用いた訓練を行うことによって運動機能の回復がみられた、変形性膝関節症による人工関節置換術後の患者に対して同様の訓練を行ったところ膝関節の運動制限の改善に有用であった、等の報告がある。なお、HALは欧州で医療機器としての承認を受けており、わが国でも平成27年11月に緩徐進行性の神経・筋疾患患者に対する医療機器として承認を受けている。

また、いなほクリニックグループのリハビリ型デイサービス「ARFIT
http://www.arfit.net/)では、コミュニケーション型ロボットのパルロ(https://palro.jp/)を用いた取り組みを行っている。パルロは、健康増進やコミュニケーション量の増加を通じた高齢者のQOL向上を目的として作られた身長約40cmのヒューマノイド型のロボットで、100人以上の利用者の顔と名前を憶えての日常会話が可能なほか、介護予防効果の高い健康体操、歌・ダンス・ゲームといった様々なレクリエーション機能を有している。ARFITではパルロに、利用者の出迎えや休憩中の話し相手等のコミュニケーションを行うマスコットキャラクターとして、また準備体操・口腔機能体操を行うロボットインストラクターとして活用し、利用者からも好評を得ている。

以上のように、ロボットによってこれまでにはない介護やリハビリが可能になりつつある。今後、しっかりとしたエビデンスを積み重ねながら、この分野の研究・開発がさらに発展していくことが望まれる。

執筆者プロフィール
都甲 崇(医師) Takashi Togo
医療法人社団みのり会理事長・横浜市立大学医学部臨床准教授

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