みなさんは、「地域包括ケアシステム」(以下、地域包括ケア)という言葉を耳にしたことはありますか?
地域包括ケアとは、要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい生活を最後まで続けることができるように、地域内で助け合う体制のことです。
団塊の世代が75歳以上となる2025年までを目途に、国はその体制の構築を目指しており、そのためには、行政と地域の医療職、介護福祉職、地域住民などが一体となって、地域の課題解決を図る必要があります。
私が地域包括ケアという言葉をよく耳にするようになったのは、和歌山県に異動した2015年のことでした。
担当地域の状況を確認するために、地域医療の中心的な役割を担っている医師に、
「この地域の地域包括ケアは、どのような感じですか?」と聞いてみました。
後から振り返るとかなりアバウトな質問ですが、「百聞は一見に如かずということで、ちょうど今夜医療職と介護職合同の研修会があるので、良かったら参加して下さい」と快く誘ってもらいました。
研修会には、医師・歯科医師・薬剤師・看護師・ケアマネジャー・理学療法士・介護福祉士など、約50名の多職種が参加されていました。そこでは、地域での認知症対策をどのように進めていくかなど、熱い議論が繰り広げられていました。
普段お会いすることのないケアマネジャーや介護職に、「製薬企業に期待することは何ですか?」とお聞きしたところ、「患者さん、利用者さんが服用しているお薬について詳しく知りたい」、「要介護状態になると錠剤が飲めない人も多いので、飲みやすい剤形を作って欲しい」という要望がありました。
その要望に応えるかたちで、後日その研修会で講師をさせてもらったところ、好評を博しました。
在宅療養患者さんや、高齢者入所施設の利用者さんに普段からよく接しているのは、医師よりもむしろケアマネジャーや訪問看護師、介護職です。そのような方にもお薬の情報をお伝えすることは、何かあった時に気づいてもらい、医師に伝えてもらうためにも必要だと思ったこと、そして、自分も何かのかたちで地域医療の役に立ちたいと思ったことが、地域包括ケアに関わるようになったきっかけです。
2018年に宮崎県に異動となり、宮崎でも地域の多職種研修会に参加しています。
印象に残っているのは、ある地域で運用している「認知症SOSネットワーク」というシステムです。誰でもネットワークに登録でき、認知症の方が行方不明となった場合、登録者のスマートフォンに「今このような方が行方不明になっています。見かけたらお知らせ下さい」とアラートがくるシステムです。
事前に撮影された認知症の方の画像や情報が瞬時に共有され、早期発見につながった事例があるそうです。
現在、多職種合同の研修会は、市町村の在宅医療介護連携推進事業の中のひとつの事業として全国どこでも実施されています。もし興味があれば、自身の住まわれている(あるいは勤務先の)地域の研修会に参加されてみてはいかがでしょうか?地域の現状と課題を、手っ取り早く知ることができるひとつの方法だと思います。
最近では医療、介護、福祉職だけでなく、自治会長や民生委員、消防士なども参画して地域包括ケアを進めている地域もあります。
さて、私が多職種連携に少し貢献できた事例をご紹介します。
宮崎県は近年、大豪雨や大型台風に見舞われる機会が増えており、また南海トラフ大地震に被災する確率は、今後30年以内に約70%と推計されています。そこで災害医療をテーマとした、多職種対象のフォーラムを企画・開催しました。災害時は特に在宅療養患者さん、高齢者施設入所の利用者さんが災害弱者となりやすく、それを念頭においた平時からの多職種連携が求められると考えたからです。
どのような話が聴いてみたいか聞いて回り、3つの内容で開催しました。
①宮崎県の災害医療体制
②災害時のICTの活用
③災害時の糖尿病診療~3.11からの教訓~
「災害」「地域連携」「多職種」の3つのKey Wordで案内活動を進めました。
具体的には、宮崎県福祉保健部、宮崎県医師会救急災害対策員会、災害拠点病院地域連携室、宮崎市郡在宅医会、地域包括支援センターなどに所属する多職種に案内をしました。その結果、医療介護関連の10職種85名に参加してもらえました。
特に、東日本大震災を福島県で体験された糖尿病専門医のお話の中で、「お薬手帳を持って避難できず、服薬していたお薬の銘柄の特定に時間がかかった、あるいは特定できない患者さんがいた、避難所で周りの人に自分が糖尿病であると言えず、治療が遅れて重症化してしまった患者さんがいた」という教訓が印象に残りました。
このフォーラムがきっかけで、宮崎県医師会、歯科医師会、薬剤師会、介護支援専門員協会など7つの職能団体の災害対策担当者がつながり、新たな多職種合同の災害医療対策の研修会の開催へと発展しました。団体の代表者がそれぞれの災害対策の取り組みを発表し、ディスカッションをとおして「多職種共通の避難所アセスメントシートの作成」などが合意されました。
災害用語で“Build Back Better”(より良い復興)という言葉があります。
「もとの状態に戻すのではなく、今回の経験をふまえて、今後どのようにより良い社会を創っていくか?」 という考え方です。
COVID-19も大きな災害と言えますが、withコロナ時代でより良い地域共生社会を創っていくために、自分に何ができるのかを模索し続けます。
※ご紹介した内容は、個人の見解と活動であり、会社としての見解や活動ではありません。