みなさん、テレビドラマ「私の家政夫ナギサさん」(TBS 2020年放送)をご覧になりましたか?
俳優の多部未華子さんが、製薬企業に勤めるMRを演じてましたが、私はそのMRです。
MRとはMedical Representativeの略で、訳すと医薬情報担当者となります。
医師や薬剤師などの医療従事者に自社医薬品の情報提供を行い、患者さんに適正に使用してもらえるように努めています。
「私ナギ」はあくまでドラマなので、実際のMRの仕事とは違うところもありましたが、実際には“ドラマ”チックという表現を超えた、感動的な場面に出会えることもあります。
入社10年目の、ひとつのエピソードをご紹介します。
湘南地域の、ある診療所を訪問した時のことです。医師と面会するために待合室で待っていると、医師から診察室に入るように声をかけられました。そこには年配の女性がおられ、私の顔を見るなり「私が今生きているのはこの薬のおかげです、本当にありがとうございました。」と、笑顔でひと粒のお薬を見せてくれました。お聞きすると、長年うつ病で苦しんで自殺しようとまで追い詰められていたが、その医師の診療を受けて大変良くなったとのことでした。
医師が「あなたが飲んでいるお薬の会社の人が今来てますよ」と伝えたところ「ぜひ直接お礼を言いたい」と、患者さんと私を引き合わせてくれたということでした。
MR人生25年間で一番嬉しかった出来事です。
患者さんからお礼の言葉をもらえたことはもちろん、嬉しかったのにはもうひとつ理由があります。
抗うつ薬発売時にその医師から、「僕は精神科専門ではないので、うつ病の患者は来ないから宣伝しなくていいよ。精神科で宣伝してきなさい。」と言われました。
そこで精神科医にプロモーション(宣伝)しにいくと、「うつ病の患者は、夜寝れない、身体がだるい、という症状を訴えて、はじめは一般内科に行くが、そこで適切な治療がなされず、重症化してからうつではないかと、うちに来ることが多い」と教えてもらいました。ほかの精神科医に聞いても同様でした。
つまり、症状が悪くなってからしか適切な治療を受けられない患者さんが多くいると考えられ、これは何とかしないといけないと思いました。
そこで、精神科医と内科医との意見交換を含めた、うつ病治療をテーマの講演会を企画・開催しました。
精神科医が内科医に、「もっと早くこちらに患者さんを紹介してくれないと困りますよ」と言えば、内科医は「実はうつ病かなと疑っても、患者さんに精神科に行きなさいと言いにくいです」などと、本音のディスカッションがなされました。この講演会がきっかけで、うつ病の診断方法、抗うつ薬の使い方、内科医から精神科医へ患者さんを紹介するタイミングや、その際の患者さんへの説明方法が共有されました。
その成果として、「うちは精神科じゃないから宣伝しなくていいよ」とおっしゃっていた内科医が、自身で抗うつ薬を処方され、良くなった患者さんを私に紹介してくれたということです。
地域の医療課題を解決することで、患者さんに貢献できたのだと、喜びもひとしおでした。
このことがきっかけで、異なる診療科をつなげる医療連携のサポート活動に、やりがいを持って取り組むようになりました。
例えば糖尿病合併症予防を目的とした、糖尿病専門医・内科医・眼科医との医療連携の仕組みづくりなどですが、あることがきかっけとなり、その後は医療と介護の連携サポートにも取り組むようになります。
(次号につづく)
※ご紹介した内容は、個人の見解と活動であり、会社としての見解や活動ではありません。