~訪問する専門医に「認知症家族のための医者との関わり方」を伺いました~
2018年10月4日
執筆者: 川内 潤

認知症診断の知識・技術、家族からの話や悩みを聞く姿勢を習得するための研修を受けた認知症専門医として、全国的にも珍しい精神科医による訪問診療にも積極的に取り組む「湘南いなほクリニック」院長の内門大丈先生に認知症家族のための医者との関わり方についてお話を伺いました。

【インタビュワー:NPO法人となりのかいご・川内潤】

―内門先生は、認知症専門医として、どんなことを行っているのですか?

「私は認知症専門医として、もの忘れ外来や認知症・老年期精神障害の方の訪問診療を地域の中で行っています。また、平成29年4月より、平塚市より湘南いなほクリニックに初期集中支援チームが委託され、地域包括支援センターなどと連携して認知症でも住み慣れた地域で暮らせるように認知症の早期診断・対応に向けた支援を行っております。
具体的には、認知症が疑われ、医療・介護サービスを受けていない人及びその家族を、地域包括支援センターの認知症地域支援推進員とともに訪問し(初回訪問は、チーム員内の看護師及び介護福祉士が訪問する)、アセスメント、家族支援等の初期支援を包括的・集中的に行うということに取り組んでいます。
その現場でよくあるのが、認知症と診断され、最初は同居している家族の世話などにより問題がなくても、時間の経過とともに認知機能が低下して通院も薬を飲むことも自分でできなくなる。そんな状態になってから初期集中支援チームの対象になることがあります。そこまで状態が悪化する前に、医療だけでなく、介護サービスにもきちんとつながっていれば、医療から脱落していってしまうことは避けられると思います。
認知症の初期段階という意味での初期へのアプローチということだけではなく、医療・介護中断例にも必要なサービスを届けるという機能もあわせもっているのが、認知症初期集中支援チームです。つまり、チームの介入以降は、医療だけでなく、多職種による見守りや援助機能を強化し、最期まで地域の中で過ごしていけるようにしていくことを目標としています。お住まいの市区町村と“認知症初期集中支援チーム”で検索すると問い合わせ先が出てきます。」

認知症の人をサポートするチームでは、どの職種が偉いとかでなく『みんなでこの人をサポートするんだ』という視点が大切です。残念ながら『もう、この人はしょうがないから』と医者が判断してしまい、周りもそれに従ってしまうケースに出会うことがありますが、そうならないためにもしっかり医者選びをしていただきたいです。
お住まいの地域で医者を探す方法として、下記のホームページを参照ください。

・日本認知症学会
http://dementia.umin.jp/g1.html
・日本老年精神医学会
http://184.73.219.23/rounen/a_sennmonni/r-A.htm

―私が企業様で行う出張個別相談でもお医者さんの判断に疑問を抱いてしまう話を聞くことがあります。そういう状況になったとき、紹介状なしで他のお医者さんに相談することは可能ですか?

「紹介状があった方がそれまでの病歴がわかるので好ましいので、できる限り紹介状を書いてもらう必要があります。しかし、前医が紹介状作成を何らかの理由で嫌がることがあり、そういった場合には、そのことを踏まえてご相談していただければ、紹介状がなくても受診しても大丈夫だと思います。医者の認知症ケアについての知識・スキル不足によって、不利益に巻き込まれてしまっている場合は主治医を変えるべきだと考えております」

「また『こういう専門医に診てもらいたいんです』と相談して、「紹介状書きますね」と言える医者こそ本当に信頼できるのだと思います。私は違う医者に診てもらうことで家族が納得して、そのあとのよりよい治療に繋がるならば、自分だけで説明するよりも、結果そのご家族の気持ちの支援になると思っています。だから『自分のところにはいつでも戻って来られるから、行きたいお医者さんがいたら紹介状を書きますよ』と送り出しています」

―素晴らしいですね。ほかによくある相談で認知症の症状が見られるのに、親御さんが病院に行ってくれないというのがあるのですが…。

「“認知症”という病名に対して拒否反応があるのならば、『高齢になったことで脳の血管が動脈硬化を起こしているかもしれないから、脳ドック受けてみない?』と声をかけることで、病院への受診につなげることができ、脳のMRIなどを撮ることができることもあります。また、長年つきあいのある、かかかりつけ医の勧めであれば、画像検査を受けいれる場合も多いと思います。かかりつけ医も最近は、認知症の勉強をしている先生が増えているため、代表的な経過のアルツハイマー型認知症であれば、抗認知症薬などの薬物治療を開始してくれる可能性もあります。また、受診に拒絶のある方にはうまく医者に行くよう誘導してくれる「認知症初期集中支援チーム」に対応してもらうのがよいでしょう。

改めて大切なのは、相性も含めて家族が医者を選んでよい、ということです。私がどんなに頑張っても家族や患者さんとの相性があって、離れていく人もいます。そんなときは躊躇せず担当医を変えていいと思っています」

―“相性が合わなければ変えていい”それをお医者さん自身に言っていただけると心強いです。今日は貴重なお話をありがとうございました。

【取材協力いただいた「湘南いなほクリニック」について】
254-0014 神奈川県平塚市四之宮1丁目3−57
HP:http://www.inahoclinic.com/shonan.html
往診対応地域:平塚市内全域(応相談)

執筆者プロフィール
川内 潤 Jun Kawaguchi
NPO法人となりのかいご代表理事

1980年生まれ。
上智大学文学部社会福祉学科卒業。
老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。
2014年に「となりのかいご」をNPO法人化、代表理事に就任。
ミッションは「家族を大切に思い一生懸命介護するからこそ虐待してしまうプロセスを断ち切る」こと。
誰もが自然に家族の介護に向かうことができる社会の実現を目指し日々奮闘中。

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