「ストリート・メディカル」による医療のアップデート(2/4)
2022年11月18日
執筆者: 西井正造

ストリート・メディカルの誕生まで

事の始まりは、YCU-CDCのセンター長である武部貴則が医学生時代に「広告医学」という概念を作ったことにあります。武部は学生として医学を学びながら、入学前の期待とのギャップを次のように感じたと回想しています。「お医者さんは、もっといろいろな人を助けられると思っていた。勉強していくと直せない病気が非常に多い。自分の家族をはじめ周りの人が多くなってしまっている生活習慣に起因する病気についても、現状の医学ではやれることが限られている・・・」と。

そこで大手広告代理店が主催する学生コンペに、「広告医学」というテーマを掲げ応募したところ、高い評価を受けられることになりました。そこでは、ただ正しいことを正しく述べる医学的言説に、人々の興味・関心を惹くための手法がつまっている広告の世界のノウハウを掛け合わせることでこれまでの隘路を脱却し、ブレイクスルーを起こせるのではないかという願いが込められていました(注1)。



<図1>上:アラートパンツ、下:上りたくなる階段

このコンペを皮切りに武部は日本の最大手の広告代理店である株式会社電通と共同プロジェクトを進めていくことになります。そういった中で出てきた施策が「アラートパンツ」(注2)であったり、「上りたくなる階段」(注3)などになります(図1)。


一方で、日本高血圧学会などのコラボレーションなどは行っていたものの(注4)、医療業界・医学研究領域では武部の個人活動の域を出ず、更に臨床の現場で日々闘う臨床医との接点をあまり持てずにいました。

そういった中、武部の横浜市立大学医学部の先輩である井上祥氏(株式会社メディカルノート 代表取締役)の仲介もあって(注5)、湘南地域で日々臨床活動をされている内門大丈先生と会う機会が設けられ、「何か面白そうなことをやっているね。この概念を是非、皆に広めたいね」とご賛同いただくことになり、「広告医学研究会」という任意団体を立ち上げることになり、全6回の会を開催し、臨床医やクリエイター、湘南地域で活動する地元の人々などとディスカッションする機会を多く得ることが出来ました(注6)(注7)。

その後、2018年に武部の活動実績が大学に認められ、横浜市立大学の先端医科学研究センター内にコミュニケーション・デザイン・センター(YCU-CDC)が正式に立ち上げられることになりました。その頃になりますと「広告医学」という概念はキャッチ―で分かりやすいものの、活動範囲やねらいとする射程は「広告」という概念では収まりきらないのではないかという議論が活発化し、現在の「ストリート・メディカル」という概念を創出するに至りました。

つまり広告医学という概念を発展的に吸収させた概念がストリート・メディカルであるとご理解いただければと思います。

(注1)武部貴則他,広告医学が拓く新たな医療のカタチ 二十年先の未来はいま作られている. 日本経済出版社. 2012

(注2)https://y-cdc.org/portfolios/alert-pants/
(注3)https://y-cdc.org/portfolios/%e4%b8%8a%e3%82%8a%e3%81%9f%e3%81%8f%e3%81%aa%e3%82%8b%e9%9a%8e%e6%ae%b5/
(注4)https://www.healthcare.omron.co.jp/medical/seminar/pdf/20141018.pdf
(注5)https://medicalnote.jp/doctors/170823-002-VR
(注6)https://medicalnote.jp/contents/170421-003-JS
(注7)https://medicalnote.jp/contents/161216-001-OY

執筆者プロフィール
西井 正造 Shozo Nishii
横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター(YCU-CDC) 助教。
教育学研究をバックボーンにしながら青山学院大学にて大学史編纂、高等教育研究に携わり、教員養成に従事。
2006年に横浜市立大学医学部特任助手として採用され、医学生と看護学生がチームを組み、地域の小中学生に向けて「訪問授業」「キャンプ」を企画実行する取組「文部科学省現代GP「学生が創る地域の子ども健康プロジェクト」の推進者として教育実践・研究に携わる。
その後、横浜市立大学にて、横浜国立大学との共同事業である文部科学省グローバルCOEプログラム「情報通信による医工融合イノベーション創生」が開始されたことを受け、特任助教として採用され、横市大と横国大の博士課程学生の医工融合研究推進のためのカリキュラム開発や教材開発を実施。その後、5年間、公益財団法人木原記念横浜生命科学振興財団にて課長職として勤務し、産学連携研究開発プロジェクトの事業マネジメントを11件担当。
2018年、横浜市立大学コミュニケーション・デザイン・センター設立に伴い助教として就任し、ストリート・メディカルの教育・研究を推進中。

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