レビー小体型認知症の臨床 〜包括的理解と治療戦略〜
2025年4月13日
執筆者: 内門 大丈

2025年4月13日(日)、第16回日本認知症予防学会専門教育セミナーにおいて、「レビー小体型認知症の臨床」という演題で講演を担当させていただいた。本稿では、当日の講演内容をもとに、レビー小体型認知症(DLB: Dementia with Lewy Bodies)の診断、症状、治療について、臨床現場での実践に即した形で概説する。


1. レビー小体型認知症とは

DLBは、神経病理学的にはアルツハイマー病に次いで頻度が高い認知症性疾患であり、神経病理診断によれば、認知症全体の約20%を占めるとされている(日本神経学会, 2017)。日本においては、小阪憲司らが1980年代に疾患概念を提唱し、病理学的特徴であるレビー小体の存在が認識されるようになった(Kosaka et al., 1984)。


2. 診断基準と画像・バイオマーカー

DLBの診断には、2017年に改訂された国際臨床診断基準が用いられる(McKeith et al., 2017)。この基準では、以下の「中核的特徴」および「指標的バイオマーカー」の有無により、「Probable(ほぼ確実)」または「Possible(疑い)」の診断が導かれる。

中核的特徴:
認知機能の変動、繰り返す実体的幻視、レム睡眠行動障害(RBD)、パーキンソニズム
指標的バイオマーカー:
・¹²³I-FP-CIT SPECT(DATスキャン)による線条体ドパミントランスポーターの低下
・¹²³I-MIBG心筋シンチグラフィによる心筋交感神経脱神経所見
・ポリソムノグラフィによるRBDの証明
画像検査においては、アルツハイマー病で特徴的な内側側頭葉(海馬など)の萎縮がDLBでは初期には目立たないことが多く、代わりに後頭葉の血流低下や機能的変化が見られる(日本神経学会, 2017)。MRIでの構造的変化よりも、SPECTやPETによる機能評価が診断の鍵となることが多い。


3. 多彩な症状とその特徴

DLBでは、認知機能障害、パーキンソニズム、自律神経障害、BPSD(行動・心理症状)といった複数の領域にわたる症候が出現する。特に、「認知機能の変動」「実体的幻視」「RBD」「パーキンソニズム」の4つの症状は中核的であり、診断上重要である。
精神症状においては、人物の幻視が66.9%、動物や虫の幻視が30.3%、誤認妄想や迫害妄想も一定頻度で見られる(Nagahama et al., 2007)。また、自律神経症状では、失禁(97%)、便秘(83%)、起立性低血圧(66%)などが高率に認められる(Horimoto et al., 2003)。


4. 治療戦略と多職種連携の必要性

DLBにおける治療では、以下の4つを治療標的とすることが推奨されている。

認知機能障害:コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)が第一選択
BPSD:幻視に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬が有用。非定型抗精神病薬の使用は慎重に行い、非薬物療法との併用を検討
自律神経障害:排尿障害や起立性低血圧への対症療法。必要時には薬物治療も導入。
パーキンソニズム:L-ドーパ製剤の効果は限定的であり、副作用に注意。ゾニサミドもDLBに対してのパーキンソニズムに対して適応あり。
これらの治療は単独で完結するものではなく、介護職、看護師、リハビリ職、薬剤師など多職種との連携によって患者のQOL(生活の質)を向上させることが不可欠である(内門,2020、繁田, 2020)。


5. 結語

DLBは、認知症の中でもとくに多様な症候を呈する複雑な疾患であり、その理解と診療には高度な専門性が求められる。画像・バイオマーカーを活用した正確な診断と、4つの治療標的に基づいた多面的かつ連携的な治療戦略が、DLB診療において極めて重要である。今後もDLBの早期発見と適切な介入を通じ、本人と家族の生活の質の維持を目指していく必要がある。

参考文献
日本神経学会(監修). (2017). 認知症疾患診療ガイドライン 2017. 医学書院.
Kosaka, K., Yoshimura, M., Ikeda, K., & Budka, H. (1984). Diffuse type of Lewy body disease: Progressive dementia with abundant cortical Lewy bodies and senile changes of varying degree. Clinical Neuropathology, 3(6), 185–192.
McKeith, I. G., Boeve, B. F., Dickson, D. W., et al. (2017). Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies: Fourth consensus report of the DLB Consortium. Neurology, 89(1), 88–100.
小阪憲司(編). (2020). レビー小体型認知症の診断と治療―臨床医のためのオールカラー実践ガイド. harunosora.
Nagahama, Y., Okina, T., Suzuki, N., et al. (2007). Classification of psychotic symptoms in dementia with Lewy bodies. American Journal of Geriatric Psychiatry, 15(11), 961–967.
Horimoto, Y., Matsumoto, M., & Kawamura, M. (2003). Autonomic dysfunction in dementia with Lewy bodies. Journal of Neurology, 250(5), 530–533.
内門大丈. (2020). レビー小体型認知症 正しい基礎知識とケア. 池田書店.
繁田雅弘. (2020). 認知症の進行を遅らせる-認知症をあきらめないために. Medical Note.

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