②Stirling University, DSDC (Dementia Services Development Centre):認知症ケア
エジンバラから北に1時間ほど行ったところにある小さな大学です。スターリングはスコットランドがイングランドからの独立を戦った歴史的な場所で、城壁や塔のあるきれいな町です。イギリスは認知症ケアが先進的であることで有名ですが、その中でもスコットランドは進んでいて、イングランドより常に一歩先を行くことを誇りにしています。
Stirling Universityには医学部はありませんが、DSDC (Dementia Services Development Centre)には、医療者を含めた多様な分野の専門家が認知症に関わる研究と社会実装を行っています。特色は建築系の研究者がいることで、「認知症に優しい環境デザイン」に取り組んでいます。
当社とStirling Universityとの出会いは8年前にさかのぼり、それ以降提携し、「認知症に優しい環境デザイン」を日本に広めるべく、一緒に活動してきました。
「認知症に優しい環境デザイン」とは、デザインによって認知症の人の困りごとを解決することに自立性を高めるものです。認知症の人は記憶に頼ることが難しくなっているので、例えば覚えていなくても何処にあるかすぐ分かるように、トイレの扉の視認性を高めるとか、不穏を招く分かりにくさを減らします。建物の内装だけではなく、街のデザインにも応用できます。認知症の人だけではなく、高齢者全般にとって優しいデザインになります。
当社では、高齢者施設、病院だけでなく、福岡市の街の認知症デザインをお手伝いしてきました。認知症デザインはケアに関わる人の啓もう教育も同時に行うことが望ましく、一昨年は経済産業省の補助金を活用し、慶応大学メディアデザイン研究科と共に「認知症の人が見える世界」を体験できるARグラスを開発しました。今回のイギリス視察は、このARグラスがアジア健康長寿イノベーション賞の準グランプリを受賞したことを千里リハビリテーション病院の橋本理事長が聞かれて、ご興味を持たれたことから発しています。
さて、Stirling Universityでは教授陣が大歓迎で迎えてくださいました。大きなカンファレンスルームの横には、お茶とクッキー、軽食、フルーツが積まれていて、とてもイギリスらしく気分が揚がります。関係ないですが、昔英国大使館に招かれたカンファレンスの休憩時に出た紅茶とスコーンとクリームは、人生でも最も美味しかったティーです。今流行りのアフターヌーンティーのような立派なものではないですが、クリームの濃さが違いました!
さて、双方の取組みの報告会の後には、学内に設置されている認知症デザインのモデルルームを見学しました。ここは研究施設も兼ねています。
台所:記憶に頼らなくても良いよう、冷蔵庫や戸棚はガラス張りで開けなくても中身が見えます。
寝室:クローゼットはガラス張り、戸棚には切れ込みが入っていて中身が見えます。この発想は認知症で無くても便利ですね。同じような服を幾枚も買うのを避けられます。
照明:体内時計を正常化するためのもので、どの程度の明るさをいつ照らすと効果的か、不快でないかを研究中とのこと。
病室:一見すると普通の部屋です。不穏にならないよう、医療機器や移乗機器は戸棚等の中に隠し、必要な時に出します。
病室廊下:音を吸収するよう壁、床、天井に特殊素材を使っています。壁に掛けられた絵画も音を吸収するよう、よく見ると凹凸が付いていました。
このモデルルームは研究するための場所でもあり、認知症の人がモニターとして参加します。スコットランドでは認知症と診断されると、すぐ登録と政府の介入が始まり、色々な支援へと繋がります。患者同士のネットワークも構築され、認知症研究や製品開発の際には、登録名簿からボランティア募集が掛かります。なので、研究被験者や製品開発モニターには困らないとのことでした。
夕食時にはスコットランド政府の認知症戦略を担当している女性の方とご一緒しました。新しい政策を打ち出したところで、目玉は、認知症と診断された初年度に住まいのアセスメントとリノベーションが入ります。早めに住宅を見直すことにより、長くそこに住み続ることを目指しています。Stirling Universityの建築系研究者も協力し、認知症に優しいデザインを入れるお手伝いをする、とのことでした。
—第3回へ続く—
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