③Calvert Reconnections Neuro-Rehabilitation Centre:重度脳損傷患者対象リハビリ
エジンバラ、スターリング、グラスゴーを経て南下し、湖水地帯に入りました。
障害児等のサポートを行う老舗チャリティ「Lake District Trust」の一部門で、比較的新しい試みで、急性期以降の急性脳損傷患者のために、一般的なリハビリと自然の中でのアクティビティを組み合わせた、英国に他がない、居住型のリハビリ施設です。
建物は詩人のWordsworthも泊まったことのある歴史的建造物(Grade2;外装変更不可、修繕にも許可が必要)で、近接して厩があり、マイクロバスで数分のところには湖、ボートハウス、体育館等があります。できる限り自立を促すため、全室個室でシャワー,トイレ付き、2戸は長期滞在用に自立アパート型です。
交通事故や脳疾患による高次脳障害,認知機能障害を持つ17歳以上の患者を受入れています。多くは長年症状改善がなく、通常のリハビリに疲れているとのこと。PT、OT、ST、心理士、医師(退職後ボランティアで来ている)が連携し、湖水地帯の豊かな自然を活かし、個人のニーズに合わせてフレキシブルに対応したリハビリメニューを行います。
例えば、乗馬や馬のお世話。馬をブラッシングすることは腕を動かすリハビリに。何頭もいる馬の特性に合わせて、飼葉を組み合わせて準備するのは認知機能を鍛えることに。障害のある方を天井から釣り上げて騎乗させる装置も屋内馬場には備わっていました。馬は人気で、退院後もボランティアで馬の世話をしにくる元患者も居るそう。この地方の馬の特色なのか、足にふさふさとした毛が生えていて、とてもカワイイ!
カヌー。ひっくり返らないよう、補助器具がついたり、2艘繋げたりして、指導員とタンデムで漕ぎ出します。指導員が繰り出す「右、左、右、右」という指示を理解し,実行することも認知機能のトレーニングに。回復に合わせて、段々と早いスピードで指示が出されるようにするそうです。当日も数艘、湖に出ていました。
ボルタリング。登ることは四肢の回復を促すだけでなく、出来た!という自信に繋がります。片手だけで天井付近まで登るようになれる方もいるそうです。
お仕事。地元の企業が受け入れています。例えば、劇場のチケットもぎや照明係。それぞれの人の出来ることをアセスメントして、仕事を決めます。湖水地帯は積極的に協力してくれる企業が多いらしく、企業側にとっては,これがチャリティへの参加になります。
患者さんはリハビリだとは思わず、楽しんでいるうちに、結果的にリハビリになる、というのがコンセプトだそう。「子供が成長するのと同じですよ。遊ぶことが,機能の発達と成長に繋がっている」と案内係の方は説明していました。しかも、成果はちゃんと出ていました。
2022年5月、最初の臨床成果報告書を発表したそうですが、「参加者の100%が日常生活能力を向上させた」、「100%の参加者が退院時に必要なサポートを減らし、60%の参加者が自立した生活を送れるようになった」、「100%の参加者が、将来への希望、人生の目的意識と方向性の向上を報告した」、「90%の参加者が目標を達成した」、「参加者の80%が自分の人生に影響を与える決定事項への参加とコントロールの拡大により、より大きな力を得たと感じた」と記されています。長年苦しんでいた重度の患者だけを対象にしていることを考えると、素晴らしい成果だと感じました。
さて、気になる費用ですが、手厚い分、高いです。食事等全て込みで、週£5000(約100万円)。平均的には3〜6ヶ月滞在しています。12ヶ月の人もいるとこのこと。事故の後遺症の人は、民間の自動車保険から紹介を受けて、その保険で支払われます。近年、NHS(イギリスの皆保険)からの紹介患者も増えていて、そのためにもアウトカムの証明に力を入れています。全額自費の人も1割ぐらい居て、高額であるにも関わらず、3ヶ月ほどの待ちが発生しつつあります。そして足らないコストはチャリティで賄われます。
帰る時に「撮った集合写真をSNSに使っていいか?」と聞かれました。チャリティで運営するには、そういう地道な発信努力も怠りません。帰国してから見てみると、訪問時のコメント「リハビリにこういうアプローチ法があるのは画期的だと感じた。今後も学ばせて頂きたい」というコメントとともに、私たちの写真が早速掲載されていました。
—第4回(最終回)へ続く—
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尚、写真の一部は訪問先のHPを転載しています。