抗アミロイドβ抗体薬を迎えた新たな認知症治療と地域医療の役割
2025年4月6日
執筆者: 内門 大丈

アルツハイマー病の治療において、新たな選択肢が登場しました。レケンビ(レカネマブ)と、2024年に日本で承認されたケサンラ(ドナネマブ)は、いずれも脳内に蓄積するアミロイドβを標的とする抗アミロイドβ抗体薬であり、アルツハイマー病のごく早期、すなわち軽度認知障害(MCI)や軽度認知症の段階での使用を前提としています。

これらの薬剤は、病気の進行を一定程度抑制する効果が期待される一方で、効果や副作用、そして患者本人の価値観を含めた総合的な判断が求められます。特に、脳浮腫や出血(ARIA)などの副作用が知られており、治療にあたってはMRIによる画像診断を含む専門的な評価が不可欠です。

そのため、治療の開始は抗アミロイドβ抗体薬導入施設で行われ、導入後も慎重な経過観察が必要とされます。こうした中で、地域医療機関には導入施設と連携しながら、継続的なモニタリングや生活支援を担う役割が求められています。

私たちメモリーケアクリニック湘南は、神奈川県内の導入施設と連携し、レケンビおよびケサンラの6か月以降のフォローアップ医療機関としての役割を担っています。現在、フォローアップ施設は十分に整備されておらず、今後これらの施設が増えていくことで、より多くの患者さんが初期導入施設で抗アミロイドβ抗体薬の恩恵を受けられるような支援体制の構築が求められます。

治療を進めるうえでは、薬剤の適応だけでなく、本人や家族が望む生活のあり方や支援体制を含めて、慎重に検討することが不可欠です。新たな治療法が導入される時代においてこそ、認知症を診ることのできるかかりつけ医が、生活の中での変化に寄り添い、初期導入施設や認知症疾患医療センターの専門医と連携して経過を見守る姿勢が、いっそう重要になります。

これからの認知症診療には、新しい薬剤の特性を理解したうえで、個々の患者にとっての最適なケアを多職種とともに模索する柔軟性と、地域に根ざした支援体制が求められているといえるでしょう。

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