1 ターミナル期の医療の現場で,できるだけ患者の意思や家族の意思を尊重しようとする場合,万が一判断を間違ってしまうと,刑法上の同意殺人罪や不作為型の殺人罪など刑事責任を問われる可能性があることは,前回のコラムにて解説しました。
医師が責任を問われないための一つの判断基準として「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」が制定されていますので(平成19年5月,厚生労働省,平成27年3月改定),大いに参考になると思います。
2 このガイドラインでは,終末期医療及びケアの方針決定について,①患者の意思が確認できる場合と②患者の意思が確認できない場合に分けて,それぞれ次の基準で判断をすることとしています。
まず,①患者の意思が確認できる場合には,ア)専門的な医学的検討を踏まえたうえでインフォームド・コンセントに基づく患者の意思決定を基本とし,多専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームとして,方針決定を行います。そして,イ)治療方針の決定に際し,患者と医療従事者とが十分な話し合いを行い,患者が意思決定を行い,その合意内容を文書にまとめておくものとします。この場合,時間の経過,病状の変化,医学的評価の変更に応じて,また患者の意思が変化するものであることに留意して,その都度説明し患者の意思の再確認を行うことが必要とされます。さらに,ウ)このプロセスにおいて,患者が拒まない限り決定内容を家族にも知らせることが望ましいとされています。
次に,②患者の意思が確認できない場合には,次の手順により医療・ケアチームの中で慎重な判断を行う必要があるとします。まず,ア)家族が患者の意思を推定できる場合には,その推定意思を尊重し,患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とします。これに対し,イ)家族が患者の意思を推定できない場合には,患者にとって何が最善であるかについて家族と十分に話し合い,患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とします。また,ウ)家族がいない場合及び家族が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には,患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とします。
そして,上記①及び②の場合においても,医療・ケアチームの中で病態等により医療内容の決定が困難な場合,患者と医療従事者との話し合いの中で,妥当で適切な医療内容についての合意が得られない場合,家族の中で意見がまとまらない場合や,医療従事者との話し合いの中で,妥当で適切な医療内容についての合意が得られない場合には,複数の専門家からなる委員会を別途設置し,治療方針等についての検討及び助言を行うことが必要であるとされています。
3 私も,医療機関から,関係者の意見がまとまらないようなケースで,法律家としての意見を求められることがあります。医療と法律が交錯する現場で,時には悩ましい判断となることもあります。