「任意後見」
2017年6月5日
執筆者: 竹中 一真

前回まで,認知症などによって判断能力の低下した高齢者を保護するための制度として,成年後見,保佐,補助という3つの制度を解説しました。

成年後見,保佐,補助はいずれも判断能力が低下したときに,裁判所に申立てをして,成年後見人や保佐人,補助人が選任されます。申立てをすることができるのは,民法上,本人の外に,配偶者,四親等内の親族,検察官等と定められています。
ただ,たとえば親族が後見開始の審判を申立てたときでも,後見人は裁判所が選任しますから,要件が認められるのであれば,本人が一度も会ったこともない(親族でもない)第三者でも,財産管理の一切を行う後見人として後見開始の審判がなされてしまいます。本人の保護のためとはいえ,本人とは縁もゆかりもない第三者が,後見人として一方的に財産管理を始めることになります。

親族でもなく,一度も会ったこともない第三者に,プライベートな内容を含む財産管理をされるということは心情として耐えられないという方もいらっしゃるかと思います。
そこで,法は,判断能力の低下した本人の保護と,本人の意思の尊重という2つの利益を調和する観点から,任意後見制度を定めました。つまり、後見人の人選が本人の意思に基づくという点が,法定後見制度との大きな違いです。

任意後見制度のもとでは,本人は,十分な判断能力があるうちに,ご自身の信頼する方に将来の後見人となることをお願いすることができます。そして,将来判断能力が低下した場合に備えて,あらかじめ必要となるであろう後見事務について,代理権を与えることができます。
このような,本人と将来的に後見人として活動する方との契約を「任意後見契約」といいます。

任意後見契約は,将来の本人の権利制限を含むものですから,その内容は極めて重大です。
そこで契約の適正な内容を確保し,紛争を予防するためにも,任意後見契約は,公証人が作成する公正証書によってなされなければなりません。
判断能力が低下した場合の契約ですから,任意後見人の代理権が発生するのは,もちろん本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況」になったときです。
このときに,任意後見人の職務の適正を確保するために,裁判所により任意後見監督人が選任されて初めて代理権が発生し,任意後見人としての活動が開始されることになります。

任意後見契約がなされたときは,原則として法定後見はなされません。
できるだけ本人の意思を尊重するためです。しかし,任意後見契約で定めた代理権の範囲が狭すぎて,本人を十分に保護することができない場合には,法定後見を開始することになります。この場合,権利関係の複雑化を避けるために,任意後見契約は終了することになります。
任意後見人は,本人との契約により誰でもなることができます。

元気なうちに最も信頼できる方に将来の手助けを頼んでおくことができるということで,任意後見制度を利用される方が多いようです。

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